現実のものとなった名シーンたち
続いて西田社中さん、茂戸藤浩司さんが舞台に現れる。『イノセンス』より[傀儡謡 怨恨みて散る〜陽炎は黄泉に待たむと]の演奏が始まるのだ。川井さんが“早くてカッコいい太鼓”を求めていた時に出会ったのが茂戸藤さんだ。【第一部】のタンクトップ姿から和風の衣装にチェンジしたがとても粋な感じだ! そういえば一口坂のリハーサルの時は赤茶の胴に紅い紐が結ばれた太鼓で洒落てるなと思ったものだが、この日は青色の胴に同色の紐が結ばれた太鼓が使われていた。ラックには【Motofuji】の文字! これもやっぱり鯔背です! さて、この曲目では約13分半という長い曲の中盤から、劇中映像をシンクロさせて劇中のシーンが生演奏で再現される。個人的に大好きなシーンで、作品を知っていればいるほど楽しめる演出と言える。でも、ちょっとでもずれてしまうと……台無しな感じになるだろう。私は事前にそのリスクを知っていただけに固唾を飲んで見守った。会場に民謡コーラスの大声音が響く。茂戸藤さんが華麗で力強い鉢さばきを見せる! 川井さんほか数名の方も和太鼓で音を刻んでいる。やがてオルゴールの音と共に映像が流れ始め、バトーが無数のガイノイド達を倒しながら突き進む。西田社中さんも茂戸藤さんも全開モード! この緊張感と迫力はDVDやサントラCDとは一味違う! そして曲も終盤となり「ドン!ドン!ドン!」という太鼓の音と共にスクリーンの中の扉が閉まる。狂いなし。狙い通りに演出が決まった! 観客も拍手喝采!
次はオーケストラの見せ場となり『アヴァロン』の楽曲から二曲が演奏される。まずは[Gray Lady (Ash)]。切ない旋律、スクリーンには呆然とするアッシュの姿……。そして、舞台にはこの日の為にポーランドより招いたソプラノ歌手、エルジビエタ・トワルニツカさんが登場。劇中のコンサートシーンで歌っていたあの方である。川井さんがポーランド語で挨拶(芝浦のリハーサルの時に一生懸命練習されていた。確か「本日はようこそいらっしゃいました」とかの内容であったと思う)。トワルニツカさんから笑みがこぼれる。どうやら伝わったようだ。トワルニツカさんも「ミナサンコンバンワ。ドウゾヨロシクオネガイイタシマス」と日本語で観客に挨拶する。演奏されるのはもちろん[Voyage To AVALON (orchestra Ver.)]で、まさしく“あの”シーンが生で再現されるのだ! なんと贅沢なことであろうか! オーケストラの演奏と共に透き通っていて染み渡るような歌声がホールに広がる。まるで一つの楽器が奏でられているように思えた。曲間に一度引き上げ再登場してラジオドラマ『ケルベロス鋼鉄の猟犬』の主題歌[Die Antwort]を堂々と歌い上げ、再び観衆の喝采を浴びた。
この辺りでもはや会場の熱気も最高潮に達していた。私の方も【第一部】から極度の興奮と集中が続いてふらふらしていた。このコンサートは観る方も体力がいる(笑)。しかし、川井さんが「次はちょっと怖い曲をやってみようと思います……本当はコンサートではどうかなと思ってたんですけど」と何やら不穏な発言。その曲は中田秀夫監督作品の『リング』より[不協分裂〜遺伝子]。そしてお約束(?)【見たら死ぬビデオ】の映像が流れ、やがてスクリーンに現れる“貞子”! 不気味な旋律! 私も観客も興奮から一転、すぅーっと血の気が引いて冷や汗(?)。川井さんによるとこの作品を担当してからホラー映画の仕事が増えて、今では年に何本かは担当しているそうだ。そう考えればやはりこの曲は外せないのだ! また、この時中田監督と『デスノート』のスピンオフ作品『L change the World』(2008年2月9日公開)で仕事をされることが川井さんより明かされた後[the Last name]が演奏され、しばし川井さんのギターに酔いしれた。 |